介護福祉士養成校における「留学生日常生活支援事業」「留学生支援員」派遣事業
介護の高度専門職として認められた「介護福祉士」をめざすには、学校教育の場で学ぶことが必要です。世界各地の国家資格とされる高度専門職は、すべてその専門的な知識と技術,価値倫理を学校教育機関で習得することになっています。日本の実務経験で可能というのがレアケースなのです。もちろん、自学自習で受験する実務経験者を否定するつもりはありませんが、外国からやってくる介護職員希望であれば、なおさら学校教育機関で基礎から学んでいく必要があると考えています。
聞きしに勝る介護人財不足であるにも関わらず、日本人介護職希望者はあまりに少なく、多くの介護福祉士養成校では、定員確保のためには外国人留学生の大勢の確保はもはや必要な状況であろうと考えます。
事実、経営のサイドで考えてみますと入学者を確保していくことは必須で、この場合、日本語能力の低い留学生を入れざるを得ない場合もあると考えます。たとえ日本語はあまりうまくなくても、懸命に「介護福祉士になるんだ」という強い意欲とその理由が明確に発言されるのであれば、N2に固執せず、入学を認めていく方向はあってもよいと思ったりしています。入学した留学生を守り育て送り出す教育の必要です。
しかしそこで問題になるのが、留学生たちにとって日本語能力と文化風習、食生活などの違いによる日常生活の不安や悩み、ストレス過多ではないでしょうか。
慣れない日本の生活、特に介護福祉士をめざす学業については学校の教員で精一杯向き合ってもらうことが必要ですが、学校生活、学業以外で留学生が抱える不安や課題は少なくないと思います。
たとえば…
- 慣れないことでのホームシック
- スーパーの買い物に行けない
- 銀行に行けない
- 病院に行けない(言葉のこともあり、診療科目もわからない)
- 金銭管理
- 遅刻欠席が多くなる
- 交友関係
- 恋愛関係
- アルバイト先(原則、介護のバイト)との問題
- アパートでの大家さんや近隣との理解不足の問題
- 母国への送金問題
- 入国管理に関する用務
- 学校では教員に言えない問題や不安(メンタルサポートも必要で、実は精神面での不安定が問題を引き起こす要因)
などです。
数え上げればきりがありません。学校生活学業は教員が責任を持って行うわけですが、教員も学校生活学業以外での対応に着きっきりになることは難しいと思います。
日常生活支援が必要な留学生が必ず一日一人だけということもないでしょう。複数人になれば教務はアウトです。そして、何より限られた教員数で学内教務の遂行をおろそかにはできません。教員は、鋭意、学内での教務、学業支援にまい進していただきたいのです。そして来たるべき国家試験で高い合格率を打ちだす必要があります。国家試験合格率の高さは、募集広報にも大きくかかわってくることは言うまでもありませんが、外国人留学生が多ければ多いほど、教員の国家試験対策の負担は大きくなることは間違いありません。
入学する留学生は目標を持っているとはいえ、慣れない環境での学校生活、学業を離れての日常生活場面での不安、負担、悩み、悲しみは少なくないと思います。目に見えない精神面での疲労、心の負担の増大は放置されてしまわれることもありますが、気がついた段階では手遅れということもあるのではないでしょうか。
当然のことながら、福祉を学ぶ学校において犯罪の加害者を作り出しては、メディアなどで全国区に放映され、ネガティブなニュースになり、学校側は大打撃となりましょう。
そこで「留学生日常生活支援事業」における「留学生支援員」派遣事業の必要を感じているのであります。学校と連携は十分に保ちますが、学校側からの要請により、定期・不定期とさまざまにありますでしょうが、基本、学業外での留学生の困りごと悩み事に対して速やかに支援を行う「留学生支援員」を設置することができれば、学校にとっても教員にとっても、そして何より留学生にとっても明るい未来につながるのではないかと考えます。手厚い支援、留学生が安堵する支援です。これらが留学生自身が母国の後輩や知人に「よい学校」として紹介して広めていくことにつながるはずです。
留学生支援システムの特徴とメリット
支援活動のスピード化がはかれる必要があります。援助の正確さと迅速化による速やかな問題解決の必要です。このことが留学生が抱える困りごとを、軽微にまたは予防することになります。
外国人介護福祉士の支援活動を施設アルバイト先において行っている東京のNPO法人「ひとりとみんな」によると「留学生にとって大切なのは、孤立させないこと、日本語をしゃべる環境をつくること、それは簡単そうに見えて教職員だけの対応では難しい」と言っています。
そこで、週3日、1日4時間のシフトによって養成校に支援員が駐在して、日常的に留学生の困りごと支援に対応できることが必要だと考えます。相談支援の用務が発生しないときには、例えば授業参観を行い、学生の授業の様子などを観察しておくとともに、職員室で専任教員と綿密な連携をとりながら学生の心身状況や状態などの聴き取りを行い、相談支援の対応に備えることとします。
駐在により、突然に初対面で相談にのるというよりも、留学生との顔見知り化によって緊張を和らげることも必要となります。また、支援員は教員からの留学生支援での困りごとにも向き合ってアドバイスや必要に応じた支援を行うことが特徴です。教員が元気にならなければ留学生も元気を失います。
なお、支援員業務日誌は駐在時に作成し、専用PCにより記録を残しておきます(実績報告書の作成)。留学生の個人情報の管理(記録)には十分に留意し、相談内容や処理内容等が外部に漏れないように配慮し、記録物は別科事務所で作成して外部には持ち出さないことを誓約文章で提出します。
もちろん支援活動の内容によっては学校の教員との連携相談やより専門性の必要な課題などの場合には専任教員との情報共有を保ちながら、専門の機関、団体、関係専門職に速やかにつないでいくことは必須であることはいうまでもありません。
支援員の人選も重要です。現在までに教育機関で教員として学生への相談支援の経験がある者、介護福祉士はもちろん社会福祉士や精神保健福祉士資格また臨床心理士や公認心理師資格を持つ者で相談支援の経験があるスタッフの派遣対応が必要になると思います。
外部委託のメリットは専従職員を雇用するよりも低額で対応できることです。また外部委託ですから内部(学内)で解決することへのリスク回避にも役立ちます。留学生が意外に躊躇するのが内部の教職員に相談することです。「恥ずかしい」「こんなことを聞いてはダメだ」「こんなこと自分で考えなさいと言われるかもしれない」など学生サイドで勝手に壁を作ってしまうこともあります。
末筆ながら、留学生支援員派遣の導入について関心のある介護福祉士校様におかれましてはご検討頂きたく存じます。