迷エッセイストが語る名著の書評「小さな島の大きな家族」        山中康平著、幻冬舎2024

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私は四国、愛媛の田舎町に育った。山間部に近い場所だったが、山々の緑の中にある黄色の花はミカンだった。子ども時代に出かけた夏休みの思い出は、真っ青でそれいでいて深い透明感のある瀬戸内海の島での海水浴だった。

 今、私は少年時代の思い出をこの著書で再燃させている。「島の空気」「緑の山」「柑橘」「潮の香」「豊かな海と自然」「素朴な住民の笑顔」「島に生きることを決意した人の吐息」そして「島を愛していくことの覚悟」、著書の写真と言葉が素直に重なり合ったメッセージはあまりにも深く心に沁みる。

「島ごと美術館」これほどまでに自然に融合し、心根に安らぎを感じさせてくれるアート作品があるだろうか。「島全体が大きな家族」は圧巻である。人が徹底して人間らしく生きることの必要とあり方を移住者の笑顔と辛くとも生き抜くという覚悟が響いてくる。

「これからを創る島のニューフェース」では賑わいの去った過疎の町の復興に徹底する意欲と実行力を見るにつけ「田舎町からの大逆転」を感じる。ここには著者が尽力して設立した「ボナプール楽生苑」が凛々しく紹介されている。障がい者の就労支援の施設が健常者とともに働く場として総合型コミュニティ施設となっての誕生である。「やってくれましたなあ」と強く頷くとともに拍手と喝采しかない。

「島全体がひとつの大きな家族、地域と共にある福祉を」著者が運営する社会福祉法人新生福祉会楽生苑からのメッセージである。決して威厳せず絶えず他者の意見に耳を傾けて行動する著者山中理事長の笑顔の小さな写真が最終ページに載せられている。欲張らない彼らしい。自分より福祉サービスを利用する方々、そして日々援助に邁進する職員たちを、そして多くの島民を前面に登場してもらっている。

小さな島の大きな家族はこれからの福祉の在り方をも提起してくれていると感じるに至った。心と体の平安を与えてくれた良書であることは間違いない。

生口島では島外からの移住者が増えていることが強く頷ける。きっとこの著書はさらに広がり読まれていき、そうなると移住者も増えるに違いない。だけど、それはちょっと困るなぁ。・・・だって島の魅力に感じ入った私も移住したいと考えているから。

とらい・あんぐる理事長三好明夫

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